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ブックス・ハイボール

古本探して西東、古本探偵な俺のノンジャンル・ブックレビュー

いくつものグリーフワーク 『映画を撮りながら考えたこと』  

学生時代、レンタルビデオ店でバイトをしていた。

国道沿いにある個人経営の店で店長は元ヤンキー風、バイト仲間の鈴木君は極真空手をやってるイケメンで、佐藤君はロン毛でお洒落だった。レジに入りながらよく映画を観たし、タダで借りれたので観たい映画をかたっぱしから観た。借りたビデオを台帳に書くのだがAVを書くときは恥ずかしかった。違うシフトには女の子が入っていたからだ。いつか映画を撮りたい、と思っていた。

是枝監督の映画を観たのは社会人になったころで、ヴェネチアで賞を獲った「幻の光」だった。「バタアシ金魚」に出てた浅野忠信がかっこいい青年になっていたことに驚いた記憶がある。淡々とした描写と色の薄い画面が印象的だったが、放り投げられるような感覚が今までの映画になかったので覚えていた。突然電車に飛び込んで死んだ夫の謎を考える妻の話だ。

次に観たのが「ワンダフルライフ」。
死んだあとにいったん魂が集まる施設でその人のいちばんの思い出を施設の職員が映画にしてくれる。それを見てから天国に行く話。ARATAや、寺島進や、奥菜恵などたくさん個性的な役者が出ていることや、何よりテーマが気に入って観終わった後に自分の今までの最高の思い出ってなんだろうとしばらく考えた。

「DISTANCE」は事件を起こして集団自殺した新興宗教の犯人たちの遺族たちのその後の話。
全編アドリブという前衛的な映画で、その緊張感に画面から目が離せなかったのを覚えている。特に浅野忠信の演技がすごい。

この本は是枝監督の半自伝のような一冊で、彼が今までに撮影した映画の思い出や考えたことをまとめている。
作品を撮っている途中で母親や父親が亡くなったり、または当時あった事件を背景にして、いなくなった人を弔う「喪の仕事」(グリーフワーク)を描いていることを知った。

哲学やこだわり、業界への危機感、世の中への異議申し立て、子供たちへの優しい目線、映画祭のこと、東京国際映画祭への批判。映画を通して、メッセージを表現している是枝監督の姿勢に共感する一冊。

読み終えて、映画を撮りたいと思っていた自分を懐かしく想い出した。
そしていなくなった人へのグリーフワークについて、自分は何かしただろうか、と考えた。

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category: 映画

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彼はいかにしてヒーローになったか『私はドミニク』  

国境なき医師団を知っているだろうか。

独立・中立・公平な立場で医療・人道援助活動を行う民間・非営利の国際医療団体で、世界各国で紛争や自然災害の被害にあった人たちを医療・人道目的で支援している。
1971年に設立され、1999年にはノーベル平和賞を受賞。

公平じゃない世界でバランスを取ろうとする英雄。現代に実在するヒーロー。
日本支部は六本木や麻布ではなく早稲田にあるところが親しみやすい。

40歳の時にその日本支部を立ち上げたドミニクさんの半生を描いた自伝。



「私は、一人の少年のためにこの本を書きたいと思う。
彼は14歳だった。ブロークンな英語を話し、ちょっとした詩を書き、私の腕にぶら下がるのが好きな少年だった。彼、リチャードはマニラのストリートチルドレン、つまり路上で生活する子どもだった。
リチャードは、マニラの街角で車に轢かれ14年の生涯を閉じた。事故のときも恐らくシンナーなどで泥酔していたのだろうと思われる。
もっと別の世界で、別の街で、別の人びとに囲まれていたなら。リチャードは生き続けることができるはずだった。誰かが愛情をもって彼に接していたなら。リチャードは死なずに済むはずだった。
彼の命の重みを思いながら、この本を書き進めたい。(本文より)」

おそらく編集者により後付けされた自己顕示欲たっぷり風のタイトルはどうかとは思うもの、内容は示唆に富んでいた。

1年の大半を旅に出て過ごしていた30歳のドミニクさんは、知り合いの女医から国境なき医師団のリクルート説明会に行ってみたら?と言われて軽い気持ちで参加。医者でもないし知識もない自分が役に立つのだろうか、と思ってパッとしない気持ちで帰ってきたそうだ。それでも彼は派遣に応じ、エチオピアの難民キャンプの診療所である出来事に遭遇する。

少女が息の止まった生まれたばかりの子どもを連れてきたのだ。

「私のこぶしほどの大きさの赤ん坊は息をしていなかった。私は息をひきとったばかりと思われる赤ん坊を見て同情を覚えたが、同時にこの母親は何を求めてここにやってきたのだろうと思った。」

ところが女医と看護師は赤ん坊を取り上げすごい勢いで心臓マッサージをはじめる。

「私には理解ができなかった。治療を待っている子どもが数百人もいるのに、なぜもう息をしていない子に時間を割いているのか。」

だが、その子は息を吹き返した。

「当時30歳ほどだった私は、ようやく人生において目が覚めたような思いがした。コボをあとにした帰りの車中で私は誓った。この医師、そしてコボとコレムで活動する同僚たちのために全力を尽くす、と。」

目的なく旅を繰り返していた青年が、死んでいた子が生き返った奇跡を目の当たりにして啓示を受け取り、人生の意味を悟る。

なぜ快適で安全な暮らしを捨てて、給与も待遇も良くない非営利団体で働くのか。
その理由がこれだ。
自分の仕事で他の誰かの命が助かる。
これ以上にやりがいのある仕事があるだろうか。

もともと医療関係者は尊敬してやまないが、改めて尊敬の念を強くした。
ちなみに医療の技術が無くてもロジスティクスやIT、マネジメントとして団体に参画は可能。
ただ素養や知恵や勇気が必要である。

自分の仕事を振り返ってその意味を考えると頭をひねるものの、まず目の前のことを真摯にやろうという動機付けをもらえた一冊。
他人事ではなく自分事にするべきだ、と思いつつ、まず英語を話せるようになるべきだな・・・と思った。

理不尽な世界のなかで、ただシンプルに目の前で困っている人に手を差し伸べることができる人。
少なくとも、そんな人になりたい、と強く思った。

category: ノンフィクション

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ハードボイルドな男は孤独でなくてはならない『高い窓』  

気の利いたことを言ってみたい。
そう思うのはマーロウの影響だろう。

パサデナに住む裕福な老女マードックから、貴重な金貨を持ち逃げして出奔した義理の娘リンダを探してほしいと依頼されたマーロウ。リンダの女友だちや古銭商を訪ねるマーロウだが、調査中に死体に出くわすことになる。



ディテイルの細かい描写と粋な会話。マーロウシリーズの良さを兼ね備えた傑作。

しっかり作られたプロットにも唸るが、アパートの管理人やエレベータを動かす老人、門番の男まで出会う人物それぞれのキャラクターが立っていて気の利いた台詞を吐くところが粋で、このコミュニケーションが普通に行われているならアメリカはすごいところだ。

後半、虐げられている老女の秘書マールとマーロウのやり取りがこの小説のベースラインになってくる。依頼はさておきマーロウは彼女を助けるために行動する。無垢で情緒不安定なヒロイン、マールの人物造形は絶妙で、この小説に心を残す。

「その家が視界から消えていくのを見ながら、私は不思議な気持ちを抱くことになった。どう言えばいいのだろう。詩をひとつ書き上げ、とても良い出来の詩だったのだが、それをなくしてしまい、思い出そうとしてもまるで思い出せないときのような気持ちだった。」
ラスト、マールにマーロウが別れを告げるシーンだ。

気の利いたことを言いながら自分の公正さを信じて事件を仕切り、そして、すべてが終わった事務所で鏡に映った自分を見ながら独り言ちる。
ハードボイルドな男は孤独でなくてはならない。

なかなか厳しい人生だ。俺はマーロウになれそうもない、と思いながら本を閉じた。

category: ハードボイルド

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誰にもとどかない言葉だとしても『もう生まれたくない』  

新聞のヘッドラインやTVのワイドショーで目にしたり耳に入る有名人の訃報。その訃報を聞くことでいつかの思い出が蘇る。

ジョン・レノン、X JAPANのTAIJI、ダイアナ妃、STAP細胞の笹井氏、スティーブ・ジョブズ・・・。

登場人物がそれぞれ訃報を聞くシーンをいくつも積み重ね、4年の月日の中で登場人物たちの人生も少しずつ角度を変える。
身近な人を亡くし、仕事を変え、恋人を変え、大事な人を失いそうになる。

彼らの軌跡を振り返って浮かんでくるのは自分の人生だ。



チャレンジャーが爆発したわよ、と母親に起こされた朝。
サリン事件のニュースを聞いたランチタイムの居酒屋。
昨日エレベータホールで会ったばかりの後輩が亡くなったと聞いた会社のデスク。

チャレンジャーの爆発を伝えてくれた母親も今は亡く、サリン事件のニュースを聞いた古い居酒屋は移転して、亡くなった後輩が褒めてくれた鞄も色褪せてしまった。

夫を亡くした登場人物がブラックニッカを飲みながら誓うシーンが感動的。
寄港するまで空母の中の郵便局にとどまる手紙のように、誰にもとどかない言葉だとしても、したためること。
誰かを悼むにはそうするしかないのだ。

主人公たちが葬式帰りの中華店で献杯するシーンを読んで、友人の妹の葬式後に献杯したドブ板の居酒屋から何年経ったのだろう、と思った。いつか俺も、俺の大事な人もいなくなり、誰かが献杯してくれるだろうか。そんなことも思った。

category: 小説

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必要なのはポリシーである『佐藤オオキのスピード仕事術』  

全日空のポスターに眼鏡をかけたカジュアルな男性が使われていて、別に美男でもないし誰なんだろうか、と思ったことはないだろうか。彼こそ売れっ子クリエイター、佐藤オオキ氏である。

手掛けた仕事はロッテのガム「ACUO」のパッケージ、エステーの「自動でシュパッと消臭プラグ」、IHIの広告ビジュアルなど、なるほどこれは結構たいしたもんだ、と思うはず。

400のプロジェクトをチームで日々こなしている彼が実践しているスピード仕事術をまとめたのがこの本。



さすが出来る男はポリシーがあるのだなあと読み進めましたがなぜかあまり頭に入らない。文体なのか、基本優しい人なのか、あまり断定がないというか、サーっと流れてしまうのですね。

なのでひっかかりがあるところをメモしてみました。

・やりかけた仕事は必ず終わらせる 
同時並行だけどもタームタームで終わらせていくと。相手に提出したらそれでボールは相手側、いったん忘れる。なるほど。

・その時に一番やりたい仕事をして、頭の回転を早める
これはわかりますね。やりたいことをやってる時がいちばん効率がいい。

・周りにモノを置かない
視覚から入るものに脳がひきずられるそうです。アイデア出しする場合は何もない空間がベストとのこと。

・仕事で着る服は2週間分をセット
仕事以外はどうでもいいわけですね。余計なことに神経を使わずにいつも同じような服を着る。

・情報収集にこそ時間をかける
クライアントの商品や業界での立ち位置、データなどをインプットしておくとプロジェクトの方針が定まりやり直しがない。

・空気を読まずどんどん地雷を踏む
担当者と上司や社長の考え方が違う、言いたくても言い出せないようなところを見抜いてあえて言うのだそう。助かりますね。

・「何にお金と時間を投資するか」を明確にする
決定する際に判断基準を決めておくと迷わない。

・スピード感が相手の満足度を上げる
これは確かに。締め切りよりも早く回答が来ていたら嬉しい。

自分の方針ややり方に合わない点はもちろんあるだろうけど、なんであろうと基準が決まっていると決断が早いのは確か。
物事を棚上げにしておくと仕事のスピードは遅くなる。これ、正論です。

しかしせっかちな人なんだろうなあ、というのも思いました。

休日はあえてゆっくりして脳を休める、というところは人間的でなごめました。

category: 実用

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